【情報処理】記憶のしやすさは情報処理で9割決まる!?




前回は心理学的な記憶システムである貯蔵庫モデルについてお話しました。

 

 

おさらいすると

・人間の(心理学的)記憶システムは貯蔵庫モデルが提唱されている
・貯蔵庫モデルは「短期記憶→リハーサル→長期記憶」
・リハーサルは短期記憶の保持力の拡張と、長期記憶への移行の役割がある
・リハーサルは維持リハーサルと精緻化リハーサルがある
・維持リハーサルは無意味な情報を繰り返すだけ→長期記憶へは行かない
・精緻化リハーサルは情報に何らかの意味を持たせる→長期記憶へ移行する

でしたね。

さて記憶の大切な工程として、「記憶対象である情報の処理」があります。前回も触れましたが、無意味な情報を単に繰り返す(維持リハーサル)よりも、有意味化された情報を繰り返す(精緻化リハーサル)方が記憶に残りやすいです。従って記憶のしやすさは事前に情報をどう処理するかにかかっているのです。

そこで、今回は「記憶の前段階である情報処理(赤丸のところ)」に関しお話したいと思います。

 

 

 

処理水準説を利用せよ!

情報処理を説明する理論に処理水準説があります。

歴史上、記憶は行動主義と認知主義の両分野で研究が行われてきました。行動主義は「動物は行動に伴う刺激を与えることで記憶する(「パブロフの犬」が有名)」考えです。一方、認知主義は「既有知識(すでにもっている知識=スキーマ)に新たな情報を関連づけ頭の中に新たな知識構造を作り上げることで記憶する」考えです。

 

 

1950年代まで主流だった古典的な行動主義に対し、以降主流となる認知主義学者のクレイクとロックハート(Craik and Lockhart 1972)が処理水準説を提唱しました。簡単にいうと「情報処理によって記憶のしやすさが異なる」ことを明らかにしたのです。

人の情報処理には、形態的処理、音韻的処理、意味的処理の三つがあり、この順に処理が深くなり、記憶に残りやすい。

 

 

例えば「携帯」という単語に対し人は以下三つの処理を複合的に行います。

①漢字なのかカナなのか。「形として」情報を処理する形態的処理
②ケーテイなのかケータイなのか。「音として」情報を処理する音韻的処理
③「店に○○を忘れた」「店に○○を払った」のどちらに当てはまるのか。「意味として」情報を処理する意味的処理

このように把握した情報をどんな形に処理するかで、記憶のしやすさが変わるわけです。ではなぜ、深い処理である意味的処理をした情報は記憶に残りやすいのでしょう。

それは、人間の記憶構造が、意味的処理された情報が最も残りやすい形になっているからです。

 

 

人の脳には残りやすい情報の形がある

ここで、人の記憶構造を理解するために、情報処理の観点から人とコンピューターを比較してみます。具体的には、「AはBでCにある。CはDでEにある」という文章(情報)を、それぞれどう処理するのか、見ていきます。

コンピュータも人も第一段階の処理は同じです。まずは以下のように文章を「何かある事実を示した一文=命題」に分解します。

①AはBだ
②AはCにある
③BはCにある
④CはDだ
⑤CはEにある
⑥DはEにある

6つの命題が完成しました。次に第二段階の処理に進みます。ここで人とコンピューターに違いが出てきます。コンピューターはこのままのデータだと、保持するのが大変なので、一定の法則に基づき以下のように書き換える処理を行います。これを「リスト化」と言います(→先がリスト化された命題)。

①AはBだ→(〜である/B/A)
②AはCにある→(〜にある/C/A)
③BはCにある→(〜にある/C/B)
④CはDだ→(〜である/D/C)
⑤CはEにある→(〜にある/E/C)
⑥DはEにある→(〜にある/E/D)

この形がコンピューターにとって最も保持しやすい情報なのです。では、人の脳はどうなのでしょう。「リスト化」ではなく「命題的ネットワーク」という構造化された情報が最も保持しやすいとされています。

 

 

少し拡張すると、個々の知識同士が関連合い構造化されたものが、人間の脳に最も親和性の高い情報の形なのです。そして、ネットワークを形成するためには情報に対し意味づけをし、情報同士の関連性を見出さなければなりません。従って、命題的ネットワーク形成は処理水準説でいう「意味的処理」に含まれることになります。

以上から、処理水準説の意味的処理は人間の脳に最も保持されやすい形への処理であることが分かります。

 

 

 

 代表的な四つの意味的処理

人が保持しやすい情報へと変える意味的処理(有意味化)はいくつかあります。少しご紹介しましょう。

 

 

①チャンク化

乱雑な情報にまとまりを作ると記憶しやすくなります。これをチャンク化といいます。例えば9つの数字の羅列を見てみましょう。

「853972641」。これだけ見ても覚えにくいですよね。そこでチャンク化してみます。電話番号のようにハイフンをつけてみましょう。

「853-972-641」

いかがでしょう。このように電話番号をイメージするような形に変形すると、ただの羅列した数字よりも覚えやすくなりますよね。情報をグループ分けすると覚えやすくなるのです。情報整理が大事なんです。

 

 

②同化と調節

すでにもっている知識体系(スキーマ)に関連させ新しい情報を取り込むことを「同化と調節」と言います。

 

 

このうち、知識体系(スキーマ)を変えずに新しい情報を関連させ、とりこむことを同化と言います。

 

 

そのままの知識体系(スキーマ)ではうまく取り込めない場合に既有知識の体系自体を変化させ、新しい情報を取り込むことを調節といいます。

 

 

例えば自分がまとめたノートがあります。ノートの内容はすでに勉強しているので、きちんと復習していれば、ノート自体がスキーマです。

 

 

そこに新しく勉強したことを関連させ、追加でメモするイメージが同化と調節です。その際、もともと書かれている内容を変えずにメモすることを同化で、内容を少し変えてメモすることを調節といいます。

 

 

 

「同化と調節」は新しい情報を意味的に処理する重要な手法です。さらに同化と調節を繰り返すことでスキーマは豊かになっていきます。

 

③精緻化

繋がりのない二つの情報があるとします。そこに、第三の情報をもってきて仲介役にし、両者に繋がりを持たせる処理を精緻化と言います。

 

 

精緻化の代表的な例は語呂合わせです。例えば、「794年に平安京が始まった」という情報があります。でもこれだけ見ると、794年と平安京の間に繋がりがありません。そこで第三の情報「鳴くよ、ウグイス平安京」というフレーズを間に挟みます。すると、「794年」を「鳴くよ」に当てはめることで、794年と平安京の間に繋がりを作ることができます。これが精緻化です。

情報間に必然性を持たせることができれば、論理的に情報を捉えることができ、記憶に残りやすくなるのです。

 

④構造化

新しい情報同士を関連づけることを言います。命題的ネットワークと同類の手法です。

 

 

このように意味的処理には様々な方法があるので、場面や情報に合わせて使い分けることが大事です。ただし、最終的に長期記憶に残すためには処理した情報を用いて精緻化リハーサルを行わなければなりません。意味的処理をして満足しては記憶に残らないので注意してください(ノートに綺麗にまとめても、復習しなければ記憶に残りませんよね)。ちなみに世にある記憶術は、意味的処理(有意味化)の方法やリハーサルのコツを紹介しているだけです。従って、意味的処理し精緻化リハーサルを行う以上に、暗記作業を楽にする方法はないのです。

今回はここまで。まとめです。

  • 情報処理の深さによって記憶のしやすさが異なる(処理水準説)
  • 情報処理は形態的処理、音韻的処理、意味的処理の順に深くなり、深いほど記憶に保持されやすくなる
  • コンピューターはリスト化、人は命題的ネットワーク形成が保持しやすい情報の形である
  • 動物によって保持しやすい情報の形が異なる
  • 意味的処理にはチャンク化、同化と調節、構造化、精緻化などある
  • 世にある記憶術は意味的処理の方法やリハーサルのコツを紹介しているだけ

 

さて、次に情報処理のさらに前段階である情報把握について考えていきましょう。新しい情報自体を把握・認識しなければ、処理できませんよね。そもそも人はどのように新しい情報を把握・認識するのでしょうか。次回は情報処理の前段階、情報把握についてお話しようと思います。

では🐧










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