【情報把握】人は2つの処理で情報を把握する




新しく出会った情報に対して行う最初のステップとは?

前回前々回と

・記憶の心理学的メカニズム(貯蔵庫モデル)
・情報処理が記憶の定着に重要(処理水準説)

についてお話しました。

 

 

 

次に考えたいのは「目の前にある情報に対し最初に行うこと」です。実はこれまでの内容は第二ステップ(情報処理)、第三ステップ(記憶)で、肝心な第一ステップについては話していませんでした。

今回は第一ステップである情報把握について解説したいと思います(赤丸のところです)。

 

 

 

トップダウン処理とボトムアップ処理

人は情報(文章や絵など)を目の前にした時に、二つの方法で把握しようとします。それがトップダウン処理とボトムアップ処理です。なおこの「処理」は情報処理ではないので、ご注意ください。

 

トップダウン処理とは、既にもっている知識(スキーマ)から予測して新しい情報を把握することです。

例えば、徐々に紙に浮き上がってくる英字を早く当てるクイズをします。始めは、まだぼんやりとしか浮き上がってこないので、英字が何か分かりません。

 

 

ここで突然、ぼんやりした英字の前後にCとTが現れました。すると紙には、はっきり見えるCとTの間にぼんやりとした英字がはさまっている状態になります。

 

こうなればおそらく、ほとんどの人は真ん中の英字を「予測して」答えることができるでしょう。そうです。「A」ですね。なぜ分かったかというと、CとTの間がAであれば、知っている単語、CATになるからです。CとTから間にある英字を予測し把握したわけです。

 

このように周りの文脈を、自分が持つ知識(スキーマ)に照らし合わせ、新たな情報を把握する方法をトップダウン処理といいます。ちなみに汚い字で書かれた文章をかろうじて読むことができるのは、トップダウン処理のおかげなのです。

あとはネットでこんなものも見つけました。ぜひ読んでみてください。

「こんちには みさなん おんげき ですか?
わしたは げんき です。 この ぶんょしう いりぎす ケブンッリジ だがいく けゅきんう けっか にんんげ もじ にしんき する とき その さしいょ さいご もさじえ あいてっれば じばんゅん めくちちゃゃ でも ちんゃと よめる という けゅきんう もづいとて わざと もじの じんばゅん いかれえて あまりす。
どでうす? ちんゃと よゃちめう でしょ?
ちんゃと よためら はのんう よしろく」

https://feely.jp/3138/より

どうでしょう。バラバラな文なのに、なぜか読めますよね(笑)。これこそトップダウン処理の力なんです。

 

さて「CとTの間にあるならAだろうな」と予測する手がかりとなった「CAT」という知識を「一つのパターン認識」と言います。認識しているパターンが多ければ多いほど、トップダウン処理の精度が上がります。

 

 

しかし、認識しているパターンが少なければ、トップダウン処理はあくまで周囲の情報を元にした「予測」なので、外れることもあります。こうした勘違いのリスクを持ち合わせているのもトップダウン処理の特徴です。

例えば、いきなり黒いものが上から落ちてきたとします。とっさにヘビかと思って、逃げるのですが、なぜかヘビは動きません。よく見ると、ヒモでした。いやーびっくりびっくり。勘違いでしたね。落ちてきたものを形や色という周囲の情報から予測した結果、「ヘビ」という知識に照らし合わせて瞬間的に行動に移したのです(逃げた)。これがトップダウン処理の特徴、勘違いです。

 

 

一方、ボトムアップ処理とはスキーマを使って予測するのではなく、対象となる情報自体の輪郭を明らかにして把握する方法です。

先ほどの例と同じように、浮かび上がる英字を早く当てるクイズを考えましょう。トップダウン処理では、途中で前後にCとTが現れましたが、今回は現れません。となると少しずつ浮かび上がってくる英字を我慢して待ち、輪郭を早く捉えて、当てなければなりません。さて待つこと数分、一つの英字が所々はっきりと見えてきました。

 

もう少し待ってみます。すると見えている部分を繋がってきて一つの英字が現れました。Aですね。

 

このように対象となる情報の輪郭や特徴を明らかにして把握する方法をボトムアップ処理と言います。この処理は当然ですが、我慢が必要です。ある程度輪郭がはっきりすれば確実に当てることができますが、そこまでに至るのが大変です。コツコツと特徴を拾い上げて、それらを繋ぎ合わせなければなりません。このバラバラな要素を理解して繋げることは情報処理構の一つである構造化とも言えます。

 

 

二つの処理を組み合わせて新しい情報を把握する

人はこの二つの処理を組み合わせて新しい情報を把握します。

例えば最初はボトムアップ処理で少しずつ輪郭を明らかにしていきます。すると次第に周囲の情報や文脈も見えてくるので、自分のスキーマと照らし合わせトップダウン的に予測し、対象となる情報を把握することができます。これら二つの処理が早いほど、新しい情報を把握するスピードも早くなります。

 

 

ではそれぞれの処理はどうすれば早くなるのでしょう。

ボトムアップ処理は、どれだけ早く目の前にある情報を繋ぎ合わせて整理し構造化するかが重要です。これは訓練によりスピードを上げることが可能です。

一方トップダウン処理はスキーマを利用するため、例にあった「CAT」のような予測の手がかりとなるパターン(つまりスキーマ)をどれだけ持っているかが重要です。このパターンが多ければ多いほど、早いタイミングでより確実な予測が可能となります。

なので、新しい情報の把握スピードを上げるためには、普段から両方のトレーニングおよび準備をしておくことが大切です。

新しい情報に関連したスキーマがまだ未熟な時期は、トップダウン処理を有効に行うことができないため、ボトムアップ処理に頼ることになります。従って物事の学び始めはどうしても時間と労力がかかります。

 

 

ただ、トップダウン処理が機能するほどの知識とパターン認識を獲得できれば、これまでメインだったボトムアップ処理にトップダウン処理を加え、一気に学習スピードを上げることができるのです。

 

 

知識が未熟な時期に図の多い教材を勧めない理由

ここで参考書に関しずっと感じていた疑問点を取り上げます。「図や表の多い教材はわかりやすいのか問題」です

確かに綺麗にまとまった図や表は、整理されており、一見理解しやすく感じます。ただこれは半分当たっており、半分間違っています。ここに一つ条件を加えて、「ある程度知識をつけた分野であれば図や表の多い教材はわかりやすい」とするならば正しいと言えます。

とても大切なことなので詳しく説明します。まず図や表などの視覚情報はもともと持っている知識(スキーマ)によって得られる情報量が異なります。簡単な例を示します。2人の学生が美術館で絵を鑑賞するとします。

 

 

1人は美術や絵などには全く興味がなく知識もありません。友達が行きたいからついてきただけです。この人は絵を見ても、なんか「落書きみたいだな~」としか感じ取ることができません。ただもう1人の学生は違います。幼いころから絵が好きで、部活も美術部。知識もたくさんもっています。こちらは同じ絵を見たとしても、タッチのしなやかさ、色のグラデーション、線の勢い、筆使いなど絵から多くの情報を得ることができます。

 

このように視覚情報は言語情報と異なり、同じものを見ても、持っている知識によって(すなわち人によって)得られる情報が全く異なるわけです。

 

では「視覚情報は得られる情報に個人差があること」をトップダウン処理、ボトムアップ処理を用いて、もう少し詳しく見ていきましょう。例えば、寝てしまい全然聞かなかった授業のノートを友達に見せてもらうとします。友達のノートは図や表で綺麗にまとまっており、一見わかりやすく感じます。すぐに書き写し、あとで見返してみます。しかし、理解できません。いわゆる「ノートは書いた人にしかわからない」というやつです。

 

 

なぜでしょう。それは図や絵も、文章と同様に一つの情報であり、把握する際にはトップダウン処理とボトムアップ処理を使うからです。今回の例だと、授業時間は寝ていたため、友達のノートにある図や表に関連した知識は皆無です。

従って、トップダウン処理は機能しません。となると、ボトムアップ処理に頼ることになりますが、図や表だけでは情報不足で十分に把握するほどの輪郭を形成することができません。こうして友達のノートにある綺麗な図や表を把握するためのトップダウン処理とボトムアップ処理が機能せず、結局訳の分からない暗号を見ている状態になってしまうのです。

 

ではここで「友達の優しく丁寧な解説」を加えてみましょう。とても優しい友達ですね。友達の解説があれば、図や表をボトムアップ処理できるだけの情報を得ることになります。こうして初めて、ノートにある図や表を把握することができるのです。

すなわち、写したノートに足りなかったのは、その図や表を説明する丁寧な解説(説明文)だったのです。

 

ただこの時点ではまだトップダウン処理できるほどのスキーマは獲得できておりません。学習を継続してある程度の知識をつけて初めてトップダウン処理が機能するスキーマを獲得したと言えます。スキーマを身につけてから改めて先ほどのノートにある図や表を見てみましょう。おそらく以前とは比べ物にならないほど分かりやすく感じるかと思います。これはボトムアップ処理に加えトップダウン処理が機能しているからです。もしかしたら友達の説明すらいらないかもしれません。

 

学校でもらう教材や市販の参考書にも同じことが言えます。まだ理解が不十分な段階で図や表の多い教材を見ても、友達の綺麗に整理されたノートを見ているのと同じ状況に陥ってしまいます。ここで必要なのは、図や表ではなく、その分野の基礎知識をつけるための優しい解説です。初学者にはスキーマによって得られる情報が異なる視覚情報ではなく、スキーマがなくても十分に把握できる丁寧で豊富な解説が重要なのです。

以上から「まだ知識が不十分な人にとっては図の多い教材ではなく、優しく詳しい説明文がある教材が適している」と言えます。

そしてある程度知識を習得した段階で、図や表の多い教材を使用するのであれば、非常に高い効果を発揮します。この時期なら図や表をトップダウン的にもボトムアップ的にも処理できるスキーマや力が身についており、情報把握もスムーズに行えます。

視覚情報の多い教材は、使うタイミングを間違えるとマイナスの影響を与えうる、注意が必要な教材なのです。

 

少し脱線しましたが、まとめです。

・人はトップダウン処理とボトムアップ処理を組み合わせて新しい情報を把握する
・トップダウン処理とは周囲の文脈からスキーマに照らし合わせて予測すること
・トップダウン処理はあくまで予測なので、勘違いすることも多い
・ボトムアップ処理とはスキーマを利用せず情報をそのものの輪郭を明確にし把握すること
・ボトムアップ処理は情報を把握するのに時間がかかる
・文章だけでなく図や表なども情報として二つの処理を用いて把握する
・十分なスキーマがない分野ではトップダウン処理は行えない。従ってボトムアップ処理を行うが、そのための十分な情報(説明文など)がなければ結局ボトムアップ処理も不十分となる
・知識が不十分な分野では、トップダウン処理を行えないため、図の多い教材ではなく、優しく詳しい説明文が多い教材を選ぶと良い。

 

さて、ようやく

ステップ①:新しい情報の把握(トップダウン処理とボトムアップ処理)
ステップ②:記憶の準備段階である情報処理(処理水準説、意味的処理)
ステップ③:記憶の実行(貯蔵庫モデル、精緻化リハーサル)

と暗記までの一連の流れを説明できるようになりました。ただ、③に関してはもう少し触れておきたい内容があります。それは「脳科学から見た記憶構造」です。次回はこのテーマでお話したいと思います。

ではまた🐧










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