【想起】想起力がなければ結果は出ない!




結果に直接影響する力

これまで数回にわたり「情報把握」、「情報処理」「記憶」「理解」「問題解決」について心理学、および脳科学の側面からお話しました。

ここで皆さんに一つ質問です。テストや仕事などで最も結果に反映される人間の学習メカニズムとはなんでしょうか。もちろん記憶や理解なども重要です。問題解決もそうですね。ただし、それらがあっても ”ある要素“ が不足していれば、結果は出ません。

その重要なメカニズムとは、「想起力」です。

 

 

想起とは、状況に応じて必要なものをアウトプットする力です。いくら単語を暗記しても、必要な時に思い出せなければテストでは点はとれませんよね。またいくらビジネス本を読んでも、仕事で臨機応変にアウトプットできなければ、全く使い物になりません。これらはすべて想起力に該当します。実は、インプットに力を入れる人は多いですが、アウトプット、すなわち想起力に力を入れトレーニングする人は少ないのです。

したがって今回は直接結果に反映される力、想起力について深掘りしていきたいと思います。

 

思考するためには想起が不可欠

想起とは、厳密にいうと「無意識下にある長期記憶から、意識下の短期記憶の貯蔵庫に情報を移動させること」を言います。人は思考する際に、短期記憶内で意識的に情報同士を関連させながら、新たな繋がりを発見したり、理解したりします。その短期記憶内で関連させ合う情報というのは、外からインプットするものもあれば、すでにもっている知識から呼び起こすものもあります。この呼び起こす、すなわち長期記憶に保持している情報を思考のために短期記憶へと移行する作業を想起といいます。

 

 

具体例を提示しましょう。例えば、穴埋めの英単語テストを行うとします。「I (  ) PenPenSensei.」のカッコに何が入るでしょう。amですね。このアウトプットまでの思考プロセスを考えてみると、

<ステップ①:外部から新しい情報を短期記憶へインプットする>
IとPenpensenseiという一人称と名詞があり、その間にカッコがある

<ステップ②:長期記憶から短期記憶へ必要な情報を想起する>
IとPenpensenseiは同じ対象を示しておりイコールでつなぐのはbe動詞

<ステップ③:短期記憶で情報同士を関連させる>
Iは一人称だから、be動詞はamになる

というわけで、「I (am) Penpensensei.」を導き出すことができたのですが、ここからもわかるように、結果を出すためには思考が必要で、思考のためには長期記憶から情報を想起する作業が不可欠なのです。

さてここでbe動詞を思い出す、想起の段階に着目してください。何もない、0から想起したわけではありませんよね。「IとPenpensenseiは同じ対象を示しておりイコールでつなぐのはbe動詞」と芋づる式に情報を思い出しています。そうです。人間の想起は、何らかの手がかりをもとに、芋づる式に行われるのです。

 

 

例えば、大学入学の際に上京して、そのまま成人になった人が、10年振りくらいに地元に帰省するとします。すると、東京にいる時には全く思い出されなかった、幼少期のいろんな思い出が、様々な場所で思い出されます。きっとあなたにも経験があることでしょう。これは地元の光景や雰囲気を手がかりにして、無意識下にあった長期記憶から情報が呼び起こされる、すなわち想起されている状態です。

人が記憶しやすい情報とは意味的処理、関連づけされた情報群であることを「情報処理」や「記憶」の回でお話したかと思います。ただ、実は想起する情報に関しても、強固に関連させ合った情報群が思い出されやすいのです。ということは、いかに情報同士のつながり、関連性を強くするかが、記憶にも想起にも重要であることがわかりますね。

ではどのようにすれば、この情報同士の関連性を強くできるのでしょうか。それを説明するためにセルアセンブリ仮説というものを取り上げたいと思います。

 

セルアセンブリ仮説(記憶痕跡)

脳は神経細胞の塊です。そして情報を取り入れたり、保持したり、想起することは、すべて脳の活動、すなわち神経細胞同士の情報伝達です。つまり先ほどから言っている「情報同士が関連し合う強さ」というのは、この神経細胞同士のやり取りの強さを示すことになります。

 

 

では神経細胞同士のやり取りの強さとは、なんでしょう。それは情報伝達のしやすさ、広がりやすさです。つまり、ある神経細胞が活動したら、次の神経細胞へ情報伝達物質を放出し、活動の波を伝える域値が、神経細胞のつながりの強さとなります。そしてある神経細胞の活動が波及しやすい神経細胞群をセルアセンブリ(記憶痕跡)と言います。

 

 

情報同士を芋づる式に思い出すプロセスは、脳科学的にいうと、ある手がかりをきっかけに神経細胞が刺激され活動し、その活動がどんどん波及している状態なのです。

この話から情報を芋づる式に思い出す、想起力をつけるためには、①活動が波及しやすい神経細胞群、すなわちセルアセンブリを形成して維持し、②何らかの手がかりをきっかけに芋づる式に活動を波及させる練習、すなわち想起練習を行えばよいことがわかります。では、ここから想起力をつける具体的な手法について詳しくみていきたいと思います。

 

LTPを誘導しセルアセンブリを強化する

セルアセンブリを形成、維持するためには二つのポイントがあります。一つは、記憶の段階で情報同士を関連させておくことです。そもそも記憶した情報を芋づる式に思い出すことが想起なため、その情報群を記憶する段階から関連させ合うことが大事なのは明らかです。

 

 

そして二つ目は「LTPを誘導することです」。LTPとはLong-Term Potentiationの略で、長期増強と日本語では訳されます。これは一言で言うと、「神経細胞同士のつながりをより強くすること」です。情報を関連させ合い、記憶するだけでも、もちろん神経細胞同士のつながりは強くなるのですが、LTPを誘導することで、より一層つながりが強固になります。

 

 

さてLTPを誘導するためには次の4つの方法があります

  1. 興味を伴わせる
  2. 感情を伴わせる
  3. ストレスを軽減する
  4. 知的努力を伴わせる

このうち1〜3はどこかで見たことありませんか。そうです。情報を短期記憶から長期記憶にもっていくために海馬をだますコツでしたね。このように記憶と想起は密接に関わっているのです。

 

 

さて、4の知的努力とは想起する際に脳に負荷をかけることを言いますが、これは想起練習とほぼ同じことを意味します。したがって、想起練習は実際のアウトプットにもつながるし、神経細胞同士のつながりをより強くするのにも働く、一石二鳥の学習であることがわかります。ということで、想起力をつけるための、「何らかの手がかりをきっかけに芋づる式に活動を波及する練習、すなわち想起練習」を詳しくお話していきましょう。

 

負荷の軽い想起練習と重い想起練習を組み合わせる

想起練習とは、文字通り「想起する練習」です。代表的なものは5種類あるのですが、これらは学習にかかる負荷の大きさで2つに分けることができます。

 

 

学習負荷は手がかりの多さによって変化します。想起のトレーニングするときに手がかりが多いものは、負荷は当然軽く、逆に少ない場合は負荷が重くなります。例えば、まとめノートを思い出しながら読み返すのは、手がかりが多い想起練習の一つです。一方、記述式のテストは非常に手がかりの少ない想起練習に該当します。この両者の学習負担の差は一目瞭然ですよね。

 

 

そして。両者にはメリットとデメリットがあります。負荷の軽い想起練習のメリットは取り組むハードルの低さです。したがって毎日でも取り入れることが可能です。しかし、一回に伴う知的努力は小さいため、数回繰り返すだけでは十分な効果を期待できません。一方負荷の重い想起練習のメリットは一回でかなり大きな知的努力を伴います。したがって、数回行えば、かなり効果の高い学習を行うことができます。しかし、一回の負荷が重く、時間も労力もかかる学習なため、そう簡単に毎日行うことはできません。

以上から、両者を上手に組み合わせて、想起練習を計画的に行うことが、想起力をつける上で何より重要なのです。では想起練習を一つ一つ見て行きましょう。

まず手がかりが多い、負荷の軽い想起練習からお話します。

 

想起練習①:間隔練習

間隔練習とは、間隔をあけて同じ内容を繰り返し思い出す練習を言います。主にノートや教科書を間隔をあけて振り返るイメージです。一定の間隔をあけて同じ内容を想起するトレーニングを繰り返すと、情報同士の関連性が強化されることがわかっています。ではどのくらい間隔をあければ良いのかというと、内容を不完全に忘れるくらいがよいとされています。さらに睡眠が神経細胞同士のつながりの強化を促進するため、間隔としては1日以上が望ましいです。

 

 

ただ、いちいち「この内容は1日あけよう」、「この内容は2日あけよう」とチェックしながら想起練習するのも面倒ですよね。もっと楽に間隔を自然とあけることができれば、無理なく継続できます。そこで力を発揮するのが相互練習です。

 

想起練習②:相互練習

相互練習とは。全く異なる内容を交互に想起することを言います。この練習のメリットは二つあります。一つは、それぞれの内容だけをみると、自然と無理なく間隔練習できることになります。さらに全く異なる内容でも、どこかで関連づけることができれば、情報の関連性を拡張することができるのです。拡張できれば、想起する手がかりが増えることになり、それは想起力の増強につながります。このように、様々な内容を交互に想起するのは、一石二鳥以上の効果を得られる可能性があるのです。

 

 

しかし、実際は全く異なる内容であれば、なかなか関連性を見出すことは難しいです。そこで、間隔練習もできて、違う内容でも関連性を見出しやすくする方法として多様練習というものがあります。

 

想起練習③:多様練習

多様練習とは、一つのテーマを複数のコンテクストで想起するやり方です。すなわち、同じテーマをいろんな想起場面を活用して、繰り返し想起練習を行うことを言います。例えば、教科書で想起練習して、次に動画講座で想起練習して、次に学校の授業で想起練習して、最後に友達と話して想起練習する。というように、いろんな道具を用いて同じテーマを想起する機会を作ります。すると、いろんな道具を用いることで、自然と間隔練習を行うことができ、かつ同じテーマであるものの、想起に使う道具や場面が異なれば、若干異なる内容に触れる機会が増え、それは自然と情報の関連性の拡張につながるのです。

 

 

以上が、負荷の軽い想起練習です。次に負荷の重い想起練習について説明します。

 

想起練習④:テスト練習

まずテスト練習です。テスト練習とは、とても少ない手がかりから思い出す練習を言います。まさに皆さんが受けるテストです。テストは実力のチェック目的でもありますが。負荷の重い想起練習でもあるのです。もちろん負荷が重いからこそ、毎日は気軽に行えません。したがって、一回一回のテストは非常に貴重な学習機会であることがわかります。

 

 

ただ、テスト練習はやりっぱなしだと、効果が減弱します。テスト練習をもっと有効活用するために、もう一つの負荷の重い想起練習、省察が不可欠です。

 

想起練習⑤:省察

省察とは、「記憶から知識や過去の経験を想起し、新しく経験したことを結びつけ次に繋げること」を言います。つまりテストの復習ですね。テストでは何をして、なぜそうなって、次はどうするのか。このように振り返る過程を通して、必要な内容を短期記憶に呼び起こし、テスト練習で獲得した新たな知識などを関連付ける。これこそが、テストを受けたあと、必ずしなければならない想起練習です。

 

 

何度もいうように、これらテスト練習や省察は負荷の重い想起練習なので、何度も行うことができません。しかし一回の練習による効果は非常に大きいです。この機会を無駄にせず、しっかりと活用することが、学習効率を向上させるコツでもあります。

 

以上が想起でした。まとめてみましょう。

・想起とは長期記憶から短期記憶に移行する作業である
・人間の想起では手がかりから芋づる式に情報を思い出す
・情報の関連性の強さは神経細胞同士のやり取りの強さである。そして一つの神経細胞が活動した際に、波及する神経細胞群をセルアセンブリ(記憶痕跡)という
・セルアセンブリを形成し維持するためには記憶の段階で情報同士を関連させることと、LTPを誘導することが重要
・LTPを誘導するためには、興味を伴わせる、感情を伴わせる、ストレスを軽減する、知的努力を伴わせるのがコツである
・知的努力を伴わせることは、想起する際に脳に負荷をかけることであり、想起練習と同等の意味である
・想起練習は手がかりの多い、負荷の軽いものと、手がかりの少ない、負荷の重いものに分けられる。
・負荷の軽い想起練習は、間隔練習、相互練習、多様練習があり、負荷の重い練習はテスト練習と省察がある。それぞれメリットデメリットがあり、上手に組み合わせて継続的な想起練習を行うことが重要である

 

さて、ここまでインプットだけでなく、アウトプットである想起も含めて、人間の学習全体を構成する機能、メカニズムを概ね説明することができました。すなわち、人間という事実に基づき、学習という現象を、ある程度紐解いたことになります。ただし、いくら良いと説明できる、裏付けのある学習方法があったとしても、勉強するやる気がなければ、全く意味がありません。そこで番外編として、やる気、すなわち動機づけのメカニズムについてお話したいと思います。

では🐧










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